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Busters verden ブスターの世界

デンマーク映画 (1984)

1979年に出版された同名原作をもとにしたTVシリーズが放映されたのは、1984年1月7日から2月11日にかけて。6回番組で、オープニング・クレジットを除いた実写部分の総計は102分54秒。この番組が好評だったことから、監督は、追加撮影や未公開映像などは一切使わず、102分54秒から19分7秒分をカットし、映画版を作成した。その際、第1話と第6話を除く途中の4話は、使用場所をかなり移動させ、全体の整合性を計った。そして、1:1.325の当時のTV枠から、上下をカットして1:1.618の横長の劇場枠とし、1984年10月5日に劇場公開した。ベルリン国際映画祭でユニセフ賞と、子供向け作品を対象にしたC.I.F.E.J.賞を受賞。内容は、設定では天真爛漫でマジックが大好きな10歳のブスター〔日本の紹介でバスターとされているのは間違い〕少年が、妹をからかう16歳のラースと戦い、雑貨店の使い走りをして小遣いを稼ぎ、得意のマジックで一目惚れの少女の心を射止めるという単純な話。それでも、ブスター役のマス・ブーケ・アナースン(Mads Bugge Andersen)〔日本の紹介でマッツ・ブッゲ・アンデルセンとされているのは間違い〕がすごくキュートで、その優しい心は、現代の荒んだ映画を見慣れた目にとっては、一服の清涼剤のような輝きがある。あらすじの作成にあたっては、元になったTVシリーズでカットされた場面も紹介することにした(全9枚、写真の左下に「TV」と表示)。その方が、ストーリーの飛躍がなくなり、「おや」と思う部分が減るからだ。なお、DVDは現在でも英アマゾンと、デンマークの通販会社などで入手可能だが、先に述べたように上下をカットしただけなので、それだけ解像度が落ちている(あらすじの写真に鮮明さがないのは、画像の荒さをぼかしで抑えているため)。TV版の方は、https://www.dr.dk/tv/se/boern/ramasjang/busters-verden-tvr/busters-verden-2/busters-verden-1-6 で無料公開されていて、解像度はDVDとさほど変わらない。興味のある方はどうぞ。ただし、字幕はない。なお、DVDにも字幕は入っていない。http://www.opensubtitles.org で入手可能な字幕は2つだけで、英語字幕とロシア語字幕。前者は信頼性ゼロで、後者はunicodeで保存されていないためキリル文字が表示されない。今回は、幸い、http://cinematext.ru/movie/mir-bastera-busters-verden-1984/ というサイトに正しいロシア語が表示されていたため、紹介が可能となった。英語字幕が如何にひどいかは、あらすじの第1節で、教師が、生徒たちに、「静かに! つま先で歩くのを忘れないように」と言った後、ブスターが靴を脱いでいるのを見て、「Buster, we're going just in our socks, so leave your shoes here.」と言う。訳せば「ブスター、私たちは靴下で行くから、靴はここに置いて行きなさい」となる。全員が靴履きのままなのに、この台詞は何だと思っていたら、例のサイトには「Бустер, ты не слишком буквально понял слова "на носочках"?」と書かれてあった。これで、「ブスター、あなた、つま先の意味が分からないのね?」と訳すことができ、ホッとした。従って、訳にあたっては、すべてこのサイトに頼ることにした。

ブスターは、少しおかしな男の子。校長就任25周年の式典の時、善意の誤解から校長を部屋に閉じ込めてしまい、式典から追い出される。校庭には、もう1人寂しい子が待っていた。それはブスターの妹で、足に軽い障害があるため、片足を引きずってしか歩けない。それをうんと年上のラースが からかって虐める。ブスターは、からかう相手が妹の同級生だろうと思い、その “ラース” を大声で罵倒するよう指示するが、そこに現われたのはバイクに乗った16歳の大きい子だった。怖くなったブスターは隠れてしまい、妹は殴られる。ブスターは、妹に復讐を誓う。一方で、ブスターは雑貨店の使い走りのアルバイトを始める。配達先で犬に追われて大変な思いもするが、いつもは通らない道で、きれいなピアノの音が聞こえ、窓から現われた美少女ヨアンナを見て恋の虜になる。復讐の方は、夜、ラースのバイクをロープで電柱に結びつけ、妹にラースを罵倒させ、怒ったラースが宙を飛ぶ〔ロープの長さだけ走ると、バイクはストップし、勢いでラースは投げ出される〕。ブスターは、大好きなマジシャンの姿で学校に行き、叱られた下級生を手品で慰めていたのを校長に見つかり、大目玉をくらったりもする。逆に、同居しているラースンというお婆さんとは仲良しで、入院後に死亡すると、悲しんで何もできなくなる。対ラースでは、祖父〔祖父の父もマジシャン〕の残した “第三の腕” の夜間練習中にラースと遭い、彼が、前回、宙を飛ばされた腹いせに木の棒でブスターの腕を叩くと、腕がずり落ち、ラースを驚かせ、最後には、一層の怒りを買う。そして、町をあげてのカーニバル。ブスターは、お金稼ぎに、ボール投げ遊びの標的になっている。そこにラースが来て、これまでの復讐を込めてボールをぶつけ、ブスターの顔を痣と血だらけにする。しかし、ブスターの痛みは、初恋の相手ヨアンナが会場に現れると消し飛び、甘く短いひと時を過す。ブスターの次の配達先は、偶然にもヨアンナの家だった。ブスターは、期待して配達に行き、大好きなヨアンナから土曜のパーティに招待される。マジシャンの格好でパーティに乗り込んだブスターは、得意のマジックで上層階級の招待客を喜ばせ、一時は、大事な娘のピアニストとしてのお披露目パーティを台無しにされたと怒った母親をも満足させた。ラストは、2人のファースト・キスで幸せいっぱいに終わる。

単独主役のブスター役は、マス・ブーケ・アナースン。1971年8月16日生まれ。服装からして夏の撮影だと思うので、1983年の夏だとすれば12歳。とても12歳には見えないほど、小さくて幼い感じ。あらすじにも書いたが、一目惚れするヨアンナの方が背も高く、顔も大人っぽい、てっきり年上の恋かと思っていたら、ヨアンナ役の方が2歳も年下。妹役の少女は3歳年下で、こちらは、確かに妹という感じがする。ブスターは、純真で優しく明るく、少し、外れていて、突拍子もないところのある男の子。マス・ブーケ・アナースンは、見事にその役を演じているが、出演作には前にも後にもこの1作のみ。


あらすじ

何の授業か分からないが、ブスターは、これから体育館で行われるお祝い会で歌うことになっている 『微笑みながら重荷を担う〔Jeg bærer med Smil min Byrde〕〔デンマークの詩人Jeppe Aakjaerの詩をもとにカール・ニールセンが作曲〕の歌詞を、ところどころでつかえながら声を出して読まされている(1枚目の写真)。簡単な歌詞もまともに読めないので、ブスターの国語の能力がよく分かる。教師は、思ったより時間がかかったので、終わると同時に、「ありがとう、ブスター」と言い、腕時計を見ながら、「体育館に行く時間だわ」と言う。「みなさん、校長先生の25周年など滅多にあるものではありません。だから、びっくりさせてあげましょう。階段はつま先で降りるのですよ」(2枚目の写真)。スティグ・オーレが手を上げ、「校長先生が早く来ちゃったら、どうなります?」と質問する。「今は、校長室におられます。10時になるまで体育館にはみえないでしょう。さあ、行きますよ」。生徒たちが立ち上がる。「静かに! つま先で歩くのを忘れないように」。ところが、ブスターは、1人だけ靴を脱ぐ。それを見た教師は、「ブスター、あなた、『つま先』の意味が分からないのね?」と言い、そのまま出ていってしまう。ブスターは、まだ意味が分からないので、脱いだ靴を机の上に並べて置いていく(3枚目の写真、矢印、すぐ左にあるのは、マジシャン用のとんがり帽子)。
  
  
  

ブスターは、教室のあった3階から校長室ある2階に降りると、そこでは、校長が廊下に応接椅子を2脚、コーヒーカップを2個置いている(1枚目の写真)。校長が出てきては大変と思ったブスターは、校長が部屋の中に入ったのを見届けると、こっそりドアに近づき、半開きのドアの内側に差し込んであった鍵を抜き取ると、表側に差し直し(2枚目の写真、矢印は鍵)、ドアを閉めて鍵をかける。一方、体育館では、いつ校長が入って来てもいいように準備を終えている。スティグ・オーレともめていた生徒が、邪魔だということで、体育館から追い出される。教頭は、「ドアが開き、ピアノの演奏が始まったら、すぐ歌い始めるように」と手順を説明する。ドアが開いたので、ピアノ演奏と共に歌が始まると、入って来たのは、鍵で手間取ったブスター。担任の先生は飛んで来ると、「ブスター、何してたの?」と訊きながら、自分のクラスの場所に連れて行く(3枚目の写真)。ブスター:「安心していいよ。ちゃんと手を打ってきたから」。クラスに入ると、ブスターはスティグ・オーレに、「校長先生、早く来るとこだった」と打ち明ける。
  
  
  

ドアが開く音がし、再び演奏と歌が始まる。今度入って来たのは、先ほど追い出した生徒だった。「何のつもりだ?」。「誰かが廊下で叫んでます」。「そんなことはあり得ん」。「聞いてみたら?」。その言葉で、教師が2人2階に見に行かされる。すると、校長室の中から、「誰かいないか? ドアを開けてくれ!」とドアをドンドンと叩く音が聞こえる。駆け寄った教師がドアを開ける(1枚目の写真、矢印は校長)。一方、体育館では、担任がスティグ・オーレから、「ブスターに訊いてみたら?」とサジェストされる。先生に訊かれたブスターは、「僕、先生が早く来ないようにしただけ」と無邪気に答える(1枚目の写真)。閉じ込めらていた校長が体育館に入るのと入れ替わりに、ブスターは体育館から校庭に追い出される。3階の教室の窓が開くと、ブスターのとんがり帽子が放り出され、次いで、靴2足が投げ捨てられる(3枚目の写真、矢印は靴、右下に帽子)。
  
  
  

ブスターが、靴を履き終えると、校庭の端から泣き声が聞こえる。それが妹だと気付いたブスターは、「おい、エニボー、なぜ学校に行かない?」と声をかける。「ラースのせい」。「何、された?」。「始終つきまとって、足のこと からかうの」〔エニボーの右足が、硬直して “かま足” 状になっている〕。「からかわれたんだな? なら、からかってやれ」。「何て言うの?」。「叫ぶんだ。『ここに来い、臭いスカンク野郎』って」。「『ここに来い、臭いスカンク野郎』って、言うの?」。「そうだ。奴は頭にくるだろうから、僕が相手になってやる」。そこで、妹は、「ラース! ここに来い、臭い…」と言いかけて、言葉を忘れる」。「臭いスカンク野郎だ」。「臭いスカンク野郎!」。そう怒鳴った妹は、「バイクの音が聞こえるわ」と言う。「バイク? それ、どういうこと?」〔ブスターは、ラースがどんな人物か知らない〕「運転できるくらい大きいのか?」。「あいつの友だちは、16だって言ってた」。それを聞いたブスターは、「僕が相手になってやる」と言っていたのに、学校のトイレに逃げ込む。外からは、「何て言った!?」というラースの怒鳴り声と、「ブスター!」と呼ぶ妹の悲鳴が聞こえてくる。「誰に向かって言ったか分かってるのか?」。「ブスター!」。ブスターが、隠れたトイレの個室から出て、トイレの窓から覗いていると、ラースは、妹の体をつかみ、「二度と俺様の名を呼ぶな! 分かったか?」と言った後、頬を引っ叩く。「じゃあ、家に逃げ帰れ、このブスチビ」(2枚目の写真、矢印はブスター)。ラースが去ると、ブスターは妹に駆け寄る。そして、「エニボー、あのごろつきたちが、たむろしてる場所知ってるか? 思い知らせてやるからな!」と慰める(3枚目の写真)。
  
  
  

2人は、そのまま家に帰る(1枚目の写真)。ブスターの家は3階建だが〔正面から見ると2階、背面は3階⇒傾斜地に建っているため〕、傷みもかなりあり、あまり裕福そうには見えない。家に帰ると、2人は、父と一緒にゲームで遊ぶ〔映画では説明は全くないが、原作では “失業中のマジシャン” という設定〕。ゲームの内容は分からないが、世界の地理にまつわるもの。マヨルカ島、トレモリーノス(スペイン東海岸のリゾート)、ガルダ湖(イタリア北部)、ハルツ山地(ドイツの中北部)、アテネと出て来たので、ヨーロッパかと思いきや、トルコのアンカラから、急に西アフリカのガンビアに飛ぶ。その時、母が来て、「ラースン夫人に食事のトレイを運んでちょうだい」とブスターに頼む(2枚目の写真)。ブスターは、すぐにトレイを持つと、3階に上がって行く〔映画では説明は全くないが、原作では “隣に住んでいて、病気がちで、ブスターの手品の大ファン” という設定〕。このラースン夫人は、祖母でも親戚でもないのに、なぜか2階にある広い居間のついた部屋に暮らしていて、ブスターがトレイを運んで行った寝室もかなり広い。夫人は眠っていて、ブスターが、「ラースンさん」と2度声をかけても、目を覚まさない。そこで、テーブルにトレイを置き(3枚目の写真)、1回前のトレイを持って部屋を出て行く。
  
  
  

ある日、ブスターが、雑貨店の前を通ると、「求む、信頼できる使い走り少年」という貼り紙がしてある。それを見たブスターは、さっそくトライすることに決め、いつも持っている櫛で髪を整える(1枚目の写真、矢印は櫛)〔その時、外に置いてあったショーウィンドーを洗うバケツに櫛を入れて塗らすところや、櫛の歯がいっぱい欠けているところが可笑しい〕。ブスターは、さっそく店に入っていくと、店主の前に立って、つま先立ちになり、少しでも身長を高く見せようとする〔ブスターは、クラスでも一番背が低い〕。店主は、「配達用の自転車に乗ったことあるのか?」と訊く。「うん、何度も」(2枚目の写真)。応募者が一人もいないので、こんなチビでも仕方がないと思い、店主はメモ帳を取り出すと、「名前は?」と訊く。「ブスター」。「それで全部か?」。「ブスター・オーレコン・モーテンスン」。「ブスター、何だって?」。「オーレコン、モー、テン、スン。おじいちゃんからもらった。デ・ストール〔偉大な〕・オーレコン。200キロの玉を持ち上げることができた。もう死んじゃったけど。老人ホームの屋根から飛び降りたんだ」。「そうか。じゃあ、試しにやってもらおうか。注文品はもう積んである。釣りがいる時には、このガマ口を使え。自転車は裏口にある。届け先は箱の中だ。さあ、行ってこい」。配達用の自転車は、非常に特殊な形をしていて、最初のうち、ブスターにはどうしても乗れない(3枚目の写真)。悪戦苦闘の末、ようやくフラフラと乗れるようになると、道の真ん中を走り、さらに、一旦停止せずに交差点に進入し、あやうくぶつかりそうになって怒鳴られる。
  
  
  

それでも、何とか届け先の門の前に着く(1枚目の写真、自転車の構造がよく分かる)。ブスターは、ガラス瓶が25本入ったケースを持ち上げると、よろよろと歩いていく〔中瓶だと500ml、小瓶でも334ml。ケースと容器の重さを除いても12.5キロか8.4キロの重さがある〕。すると、コッカースパニエルが、ワンワンと吠えてブスターの後ろから飛びかかる(2枚目の写真)。ブスターは、「行っちまえ! 痛いじゃないか!」というが、やめてくれない。ようやく玄関が開き、「ネロ、やめなさい。ボクは、動かないで」と言うが、犬はちっともやめない。ブスター:「聞いたろ、このバカ犬」。飼い主:「ネロ、来なさい」。犬は、玄関から中に飛び込んで行く。犬のしつけもできない飼い主は、謝りもしない。ブスターは、「犬は人間の一番の友達だよね」と笑顔で言うが、仏頂面をしたおばさんは、「注文したのは2箱でしょ」と批判する〔こんな小さな子が、一度に2箱も運べるはずがない〕。ブスターは、「すぐ取ってくる」と言って、2箱目を運んでくる。「使い走りにしては幼な過ぎない?」。「ぜんぜん。背が低いだけ」。「他になり手がなかったのね」。「最後の手段だったかも」。「これ何なの?」。「ライト・ビールみたい」。「見りゃ分かるわ。私は普通のビールを注文したのよ」〔注文品は自転車にもう積んであったので、責任は店主にある〕。「普通の?」。「持って帰ってちょうだい」。「請求書は持ってるの?」。「うん、ガマ口の中にあるよ」。そう言って渡す。うるさいおばさんが請求書を見ている間、ブスターは、チップがもらえるように身だしなみを整える(3枚目の写真)。しかし、それと察したおばさんは、「間違った品を配達した子には、チップなんかあげないわよ」と言い、ブスターは重いケースをもう一度自転車まで運ぶ〔映像にはないが、恐らく2箱とも〕。4枚目の写真は、TVシリーズ(第2話)にあったが、映画化にあたり削除されたシーン。今回、9枚用意したうちの最初の1枚。配達シーンの直後に挿入される。仕事が終わった後、ブスターは空いた自転車に乗って自宅に行き、妹を自転車の “配達商品置き場” に乗せてやる。ブスターが妹思いの兄だとよく分かるシーン。
  
  
  
  

別な日、ブスターが、配達のため自転車をこいでいると、ピアノを奏でる音が聞こえてくる。それは、スローテンポで演奏されるベートーベンのピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調『月光』の第1楽章だった。ブスターは、自転車を止め、地面に降り、少しバックすると、目を閉じて聴き入る(1枚目の写真)。しばらくすると、南欧風の家の2階のバルコニーの扉が上品そうな夫人によって開けられ、ピアノの音がやむと、そこに1人の少女が姿をみせる(2枚目の写真)。ブスターは、人目で好きになり、穴があくほどじっと見つめる。女の子は、「どうしたの?」と声をかける。ブスターは、「空気を吸ってる。ここって、どこか特別な匂いがするから。知らなかった?」と言う(3枚目の写真)。「気付かなかったわ」。「香りには詳しいんだ。だから、確かだよ。旅行もいっぱいしてるし。これ〔いつも着ているアロハシャツ〕はハワイので、一緒に行った時、父さんが買ってくれた」〔すべて、罪のない嘘〕。「何て名前?」。「ブスター。ブスター・オーレコン・モーテンスン」。ここで、夫人が来て、「続きをしないと、ヨアンナ」と言葉をかける。ヨアンナは、「また、いつか会えるわね。アデュー」と、最後はフランス語で締める。ブスターは、さっそく、「アデュー」と返事する。4枚目の写真は、TVシリーズ(第3話)にあったが、映画化にあたり削除されたシーン。映画では、最初の配達の帰りに偶然通りかかったように見える。しかし、変なのは、返品を2箱持っていなければならないのに1箱しかないこと。理由は、当初のTVシリーズでは、配達は第2話、音楽は第3話で、そもそも行った日が違うから。その第3話には、あらすじの4節後のスティグ・オーレの犬騒動の後、暗くなってからヨアンナの家の前に行き、ピアノに聞き惚れるブスターの姿が映される。ブスターが、ヨアンナの虜になってしまったことがよく分かる。
  
  
  
  

ブスターと妹が、洗ったものを裏庭の物干しに吊るしている。その時、ラースのバイクの音が聞こえる。ブスターは、竿柱に吊り下げてあったロープを手に取る(1枚目の写真)。辺りが真っ暗になってから、ブスターは妹を連れて、ラースたちが “たむろしている場所” に向かう。2人が生垣の角までくると、20メートルほど先で、ラース、同年輩の男女、それに、校長の25周年の時、ブスターのことを告げ口したスティグ・オーレが一緒にいて、話し込んでいる。それを見た妹は、「見つかったら大変よ」と心配するが(2枚目の写真)、ブスターは、「平気だ。ここで待ってろ」と言い、ロープを持って、こっそりバイクに近づいて行く。ラースたちは、話に夢中で気付かない。ブスターは、バイクの所まで行くと、ハンドルの下の部分にロープの先端の輪をかけ、もう一方の端を、すぐ近くの電柱に結ぶ(3枚目の写真、矢印はロープ)。そして、妹のところに戻ると、「次は、お前の番だ。奴を呼べ」と命じる。妹は、生垣から姿を現し、「ラース」と呼ぶ。そして、ラースが気付くと、「間抜けな、にきび面(づら)の臭いスカンク野郎」と罵倒する。ラースは、「このクソチビ、思い知らせてやる!」と言ってバイクに乗る。バイクはロープの長さだけ走ると、そこで急停止し、ラースは、前方に投げ出され、たまたま置いてあった乳母車にぶつかり、大ケガをせずに済んだ(4枚目の写真)。5枚目の写真は、TVシリーズ(第1話)にあったが、映画化にあたり削除されたシーン。妹が、ラースに復讐してくれたお礼に、その夜、ブスターの枕元に花を置いてくれる。ブスターは妹に、妹はブスターに優しい。
  
  
  
  
  

別な日、ブスターは、マジシャンの格好をして学校に向かう。黄色のシャツに赤い★を貼り付け、背中には赤いマント、頭には、いつもの★付きのとんがり帽子をかぶっている。途中で、にくたらしい犬のいる家に行き、門から顔をのぞかせ、犬を脅して楽しむ。学校に遅刻して行き、口の中に “マウスコイル” を入れて、「物理」と書かれた実験教室に勇んで入ると、意に反して中には誰もいない。がっかりして、階段を降りていると、教師の怒鳴り声が聞こえる。「出て行け! そこに立って、頭を冷やしてろ!」。ブスターが、廊下を見ると、2人の下級生が廊下に追い出されていた。ブスターは、如何にもマジシャンらしい姿で2人に近づいていくと、「お前たち、学校での行儀を知らないな。偉大な、ブスター・オーレコン・モーテンスンが口から腸(はらわた)を出してやる。16.5メートルあるぞ」と言い、ゲッと言うと同時に、さっき口の中に入れた“マウスコイル” を順に引き出す。最初は赤い紙テープ。ゲッと言う度に、色が変わっていく。“マウスコイル” の手品は、ただ紙を引っ張り出すだけではダメで、それなりの演技が要求されるが、ブスターは堂に入っている。ところが、マジックが佳境に入った頃、後ろに校長が現れる(1枚目の写真、矢印)。そして、真後ろまでくると、ようやく気付いたブスターに、「何をやってる、ブスター・モーテンスン?」と詰問する。見ていた下級生が、「腸を出してます」と、代わりに答える。ブスター:「僕は、ただ…」。校長:「部屋に来なさい」。そして、口から紙テープの切れ端を出したままのブスターを、机の前に座らせる。「口の中の巻紙を出してもらえるかな?」。ブスターは、手品の続きを始める。「もし、口の中にまだ残ってるなら、今すぐ吐き出しなさい」。ブスターは、それでも、手品を続ける。その時、電話がかかってきて、ちょうど紙も出し終わる。校長が電話にかかりきりになっている間に、ブスターは次の種を仕込む。そして、校長の電話がまだ続いている時、口の中から白い玉を出してみせる。1個出し、次が2個目。校長は、電話を中断し、手品に目を見張っている。そして、会話を中断したことを、「済みません、生徒の一人が口から卵を出したものですから」と、相手にはトンチンカンなことを言ってしまい、これ以上邪魔されないよう、ブスターを追い払う。秘書の部屋に行ったブスターは、そこで、次の手品の用意をし〔秘書はタイプに夢中で目もくれない〕、校長が電話を終えると 部屋に入って行く(3枚目の写真)。ブスターの顔を見た校長は、「出てけ!」と怒鳴る。4枚目の写真は、TVシリーズ(第3話)にあったが、映画化にあたり削除されたシーン。校長室を追い出された後、ブスターは、ストッキングを被った状態のまま教室に連れて行かれ、男性教師から厳しいお説教をくらう。
  
  
  
  

ブスターが、犬のいる家に、またビールを1箱届けようとしている。門の前に着き 犬を脅していると、そこに、新しい自転車に乗ったスティグ・オーレが通りかかる。スティグ・オーレは、ブスターの変な自転車に惹かれて寄って来る。ブスター:「やあ、スティグ・オーレ。新しい自転車、買ってもらったのか?」。スティグ・オーレ:「おニューだ。ブレーキも新型だぞ」。「乗り心地は?」。「いいけど、乗りこなすのが難しい。練習しないと」。ここで、話題を変える。「小鳥が言ってたぞ。校長に叱られたそうじゃないか」。「将来について、ちょっと話しただけさ」。「話した? 冗談だろ?」。「冗談なもんか」。「大きくなっても使い走りをやるつもりか?」。「そんなに簡単じゃないんだ。強い筋肉がないと」。「誰にでもできそうだぞ」。「才能がないと無理だ。誰にでもできるわけじゃない。この自転車見てみろ。腕が強くないと乗れない」。スティグ・オーレは、ブスターを押しのけて、「簡単さ」と言って1発で見事に乗りこなす。そして、「使い走りなんか、誰にでもできる」とバカにする(1枚目の写真)。「一番難しいのは、重いビール瓶の箱を運ぶこと、がま口だってあるし」。「がま口?」。ブスターは、「これさ」と、がま口を見せる。そして、ビール瓶の箱を自転車から持ち上げると、そのまま門まで行き、「門を通るのが、また大変なんだ」と言う。「お前にできるんだったら、楽勝さ」。そう言うと、スティグ・オーレが箱を地面に置かせ、がま口を取り上げ、箱とがま口を持って門の中に入る。これこそ、ブスターが待っていた瞬間だった〔トム・ソーヤーの “塀のペンキ塗り” の変形版〕。ブスターはすぐに門を閉め、意地悪犬の現れるのを今か今かと待つ。犬は期待通りにスティグ・オーレに飛びかかる。スティグ・オーレは、ブスターと違い、箱を置いて逃げ出し、庭の中を逃げ回る。これは、明らかな失敗で、犬をより凶暴にさせ、何度もズボンに噛みつく。スティグ・オーレが、やっとの思いで庭の木にぶら下がった時には、ズボンは裂け、脚からは血が出ていた(2枚目の写真、矢印)。ようやく夫人が出てきて、バカ犬を家の中に入れると、その瞬間、ブスターは門から飛び込み、スティグ・オーレが置いて行ったビール瓶の箱を夫人のところまで運ぶ。スティグ・オーレは、痛そうに門から出て行く〔現代だったら、幾ら自宅内でも、治療費の支払いは当然だろうし、示談金の請求もされる可能性がある〕。ブスターは、夫人からチップをもらうが、その額わずか25オーレ〔現在の約8円〕。本当にケチ。4枚目の写真は、TVシリーズ(第5話)にあったが、映画化にあたり削除されたシーン。どこにも入れる場所がなかったが、結構長いシーンなので、無視できず、第3話のスティグ・オーレのシーンとは無関係だが、一応ここに入れることにした。学校で行われる両親と生徒を交えた個別懇談の場面。スティグ・オーレは母親と一緒だが、ブスターは父親〔失職中なので暇〕と一緒に来ている。面談では、ブスターの問題行動が指摘されるが、マジシャンの父は強気で反論する。
  
  
  
  

次のシーンは、学校の体育の授業のサッカー試合。太った体育の教師が、生徒を横一列に並べてウォーミング・アップさせる。この中でも、ブスターが一番小さい。試合をさせるので生徒を2つに分ける。教師は、サッカーが一番上手なヴァルダーを呼び、2人で、一列になった生徒のなかから、順番に欲しい生徒を選んでいく。最後に1人残ったのは、ブスター。仕方なく、教師が引き取り、スイーパー〔センターバックを援護する守備選手〕にする。ブスターは、意味が分からなかったので、スティグ・オーレに、「僕、何すれば?」と訊く。「さあな。好きにやってろよ」。体育の教師は、公平性など無視し、自分のチームに有利なように試合を進める。自分がキックしようとして邪魔した生徒は、投げ飛ばす。そこに割り込んだのが、ブスター。同じチームなのに、教師からボールを奪う(1枚目の写真、矢印)。教師が、それを叱っている間に、ボールは相手側に移り、ゴールされる。しかし、教師は、プレー妨害でノーゴールにする。対戦相手の主将のヴァルダーは、激しく反論し、通らなかったので、「でたらめだ」と怒ると、イエローカード。ひどい教師だ。次に、教師は、ブスターを相手に、自分が如何にドリブルが巧いかを見せつける。いい加減、うんざりしたブスターは、教師のすねを蹴る(2枚目の写真、矢印)。教師は痛くて転倒し、その間に、ブスターはネットを登って運動場から逃げ出す(3枚目の写真)。
  
  
  

サッカーから逃げ出したブスターが家に直行すると、家の前には救急車が停まり、家の中から担架に乗せられたラースン夫人が運ばれてくる(1枚目の写真)。ブスターはラースン夫人の手を取ると、心配そうに、「戻ってくるよね?」と訊く(2枚目の写真)。「もちろんよ、ブスター」。夫人は、「何が起ころうと、マジックは続けるのよ」と言い、救急車に乗せられるまで、ずっとブスターを優しい目で見続ける。ラースン夫人の姿が救急車の中に消えると、ブスターはすごく心配そうになる(3枚目の写真)。映画だと、ブスターは、1回食事を運んだだけなので、ラースン夫人のマジック云々の話は、“藪から棒” に聞こえてしまう。これには、次の節を参考にされたい。
  
  
  

ラースン夫人の救急搬送はTVシリーズの第4話だが、第2話に、ブスターがマジック用の “第三の腕” を見つけるシーンがある。腕は大人用で大きいが、ブスターはそれを、妹の前で箱から取り出し(1枚目の写真)、長袖の上着の右腕に通し、自分の右手は服の中に隠す。そして、「皆さん、世界の不思議、3本腕の男です」と言って、振り向いて見せるが、妹は、感心した顔を見せない。そこで、ブスターは、「誰も、信じないと思ってるんだろ?」と自嘲気味に言う。妹は、「もうちょっと練習しないと」と、本音を言う。この後が、映画化に当たって消されたシーン。妹は、「ラースンさんに見せてきたら?」と言い、ブスターはラースン夫人を訪れる。その日のラースン夫人は、ベッドに横になってはいるが、楽しそうに雑誌を見ている。ブスターは、その前で3本腕を披露するが、もっと頑張れと優しく激励されただけ(2枚目の写真)〔何度も書くが、救急搬送される前のシーン〕。そこで、ブスターは、外に出て行くと、誰もいない池の端に行き、ラースを大声で罵倒しながら、練習する。すると、そこに、運悪くラースが彼女と一緒に通りかかる。そして、落ちていた棒を拾うと、振り向いたブスターに、「バカげた尖がり帽子はどうした?」と訊く。「家に置いてある」。「片ちんばの妹はどうしてる?」。彼女は、ラースが何かしそうなので、「行こうよ、ラース、寒いわ」と誘い、ブスターも、「寒そうだよ」と言うが、ラースは、「お前に関係ない、むかつくゲジゲジ野郎め。お前は狂ってるんだ。まともな奴なら、バイクにロープなんか掛けん。なぜ、あんなことをした?」と詰問する。「他になかった」。「『他にない』って、どういう意味だ?」。「家にあったのは、あのロープだけだ」。ラースは、「俺をバカにする気か?」と言って、木の棒でブスターの右腕を強く叩く。「お前は、これでツケを払うんだな!」。そう言うと、ラースはさらに強く棒で叩く(3枚目の写真、矢印は “第三の腕”)。ブスターは、如何にも痛そうな顔をして、“第三の腕” を少し下げる。暗くてよく分からないので、ラースは、ブスターの腕が折れたかと思う。「そんなにひどく叩いてないぞ」。ブスターは、“第三の腕” をもっと下げる。あたかも、腕がちぎれかけたように。「腕が落ちてるぞ! どうしよう! そんなつもりじゃなかった! ごめんよ!」(4枚目の写真)。そして、“第三の腕” がボトンと地面に落ちる。ブスターは、自分の右手で、“第三の腕” を拾う。そして、ニコニコしながら、「平気だよ、ラース。偽の腕なんだ」と言う。ラースが本気で怒ったのを見たブスターは、ヤバイと思って逃げ出す。ラースは、「生皮を剥いでやるぞ、ブスター・モーテンスン!」と怒鳴る。
  
  
  
  

町はカーニバル一色だ。移動遊園地は来ないので、遊戯施設はないが、1つだけ、ボールを顔にぶつけるゲームが用意されている。背後のボードに顔の入る穴が7つほど開いていて、そのどこかにブスターが顔を入れる。その顔にボールを全部当てれば、お金がもらえるという遊びだ〔料金は不明〕。会場内にラースがいるのを知ったエニボーは、兄ブスターのことが心配になり、あちこち探していると、その “ボールぶつけ” の場で兄を発見する(1枚目の写真、黄色の矢印はブスター、赤の矢印はボール)。係は、「さあ、試そう! この醜い顔〔ブスターは、あっかんべーをしたり、ワザと変な顔をしている〕に、見事6球全部当てたら5クローネだよ!」と、客寄せをしている。ラースは、昨夜の彼女と、スティグ・オーレの3人で歩いていたが、ブスターを見つけると、ニンマリと笑う(2枚目の写真)。そして、“ボールぶつけ” の前まで来ると、「よお、ブスター」と嬉しそうに声をかける。スティグ・オーレは、ブスターに、「ボールを受ければ、僕が払ってやる」と言うが、ラースは、「死人に払うのか?」と不気味に言い、一球目を投げる。わざと外すが、すごいボールなので、ブスターはびびる。それからは、投げる玉は全部ブスターの顔を直撃し、顔は、痣で茶色になり鼻血で赤くなる(3枚目の写真、矢印はボール)。その残虐行為を止めてくれたのは、サッカーの教師だった。「いったい何やっとる? お前より弱い奴を痛めつけて、偉いとでも思ってるのか? 自分の方が強いと? お前より強い奴に殴られたら、どうなるか教えてやろうか? お前、どうかしてるぞ! ひどい奴だ!」。これを口頭で言うのではなく、壁に何度も背中をぶつけながら言うので、ラースにはいい薬になっただろう。エニボーは、すぐに兄を芝生の上に仰向けに寝かせ(4枚目の写真)、救急セットの綿で鼻血を拭き取る。「なぜ、あんなことしたの?」。「10クローネ35オーレ〔330円〕稼いだ」。妹は、鼻に綿で栓をする。ブスター:「いつ、暇になる?」。妹:「あと、1時間半」。「じゃあ、その時、ホット・チョコレートとクッキーをおごってやる」。
  
  
  
  

ブスターが、芝生から体を起こすと、あのヨアンナが夫人に連れられて会場内を歩いている。夫人には、主催者やお偉いさんが挨拶しているの、よほどの名家なのだろう。ブスターには、ヨアンナしか目に入らない。立ち上がると、少しでも近くに行こうと、寄って行く。ヨアンナに見とれたまま、お菓子のカウンターに腕をついてしまったので、潰れたケーキ代2.5クローネ〔80円〕を請求される。ヨアンナの母親が、牧師と話している間、ヨアンナは近くのテーブルに腰を降ろす。ブスターはさっそく隣に座る。ヨアンナは、ブスターを見ると、「今日は」と嬉しそうに話す。ブスターは、これ幸いと、「今日は、君も来てたの?」と、如何にも今見たばかりのように訊く(1枚目の写真)。ヨアンナは頷く。「僕は、招待者じゃなく、ここで働いてるんだ。ボール投げだよ。たっぷりもらえるから」。「なぜ、鼻に綿を込めてるの?」。「ボールが当たっちゃったから」。そして、「ココアとケーキ、欲しくない?」と訊く。「いただくわ」。ブスターは、ホット・チョコレート2杯と、予算の関係で、小さなケーキ1個を買い、テーブルまで運ぶ。「さあ、どうぞ」(2枚目の写真)〔この2人を見ていると、どう見てもヨハンナの方が年上に見える。しかし、IMDbでもdansk film databaseでも、ブスター役のMads Bugge Andersenが1971年8月16日生まれなのに対し、ヨハンナ役のSigne Dahl Madsenは1973年10月6日とあり、2歳年下だ。信じられない〕。「ありがとう。あなたの名前、覚えてるわ。ブスターでしょ」。「ブスター・オーレコン・モーテンスンだよ」。「私は、ヨアンナよ」。ヨアンナの母親は、娘が汚い男の子と一緒に座っているのを見つけると、「話したがってる人がいるわよ」と言い、2人を引き離す〔牧師に合わせる〕。ヨアンナは、時々ブスターを方をチラと見るので、彼のことが気に入ったようだ。兄が、テーブルで1人寂しくしているのを見た妹は、持ち場を離れると、「もう、用意したの?」と言ってテーブルに座る。「これ、私のケーキ?」。「うん、食べていいよ」(3枚目の写真)。
  
  
  

ブスターがベッドで寝ていると、妹が起こしにくる。呼んでも起きないので、明かりをつける(1枚目の写真)〔外は明るいのに、なぜ眠っていたのだろう? 早朝なのか?〕。「ママが呼んでる」。「どうした?」。「服を着て、下りてらっしゃいって」。ブスターが、いつものアロハシャツを着て下りてくると、1階は暗いムードだ。父:「あの子も連れてくのか?」。母:「1人で会うのは嫌よ。あなたは来ないし」。そこに、タクシーが来た音がする。何も知らされていないブスターは、「どこに行くの?」と訊く。母:「病院から電話があったの」。父:「ラースン夫人だ」。「意識不明なの。しばらくすれば、回復すると話してたけど」(2枚目の写真)。2人はタクシーで病院に向かう〔ヘッドライトは点けているが、かなり明るい〕。ブスターは、とんがり帽子をかぶり、トリック・マジック・ステッキ〔中から花が出てくる手品用の棒〕を手にするが、母は、アロハ・シャツが汚いことも含め、お見舞いには相応しくないと、隠し持って行くように言う。しかし、病院に入って行くと、看護婦は、「ラースン夫人は、1時間前に眠るように息を引き取りました」と言う。2人は、遺体の置いてある部屋に連れて行かるが、積極的に弔意を示したのはブスターだけだった。彼は、遺体の手の甲を撫で、頬に口づけすると、顔をみながら、「さよなら、ラースンさん」と声をかける(3枚目の写真)。ブスターが、すごく優しい子だと誰もが気に入る瞬間だが、このシーンも、カットされた “生前のラースン夫人との交流” がないと、理解し辛い。4枚目の写真は、TVシリーズ(第6話)にあったが、映画化にあたり削除されたシーン。このシーンは、映画で言えば、次の2つの節の後に位置するが、関連するので、ここで紹介しておこう。ブスターと妹が、ラーソンさんのお墓にお参りに行く場面。ブスターは、病院に持って行ったトリック・マジック・ステッキから、花を出した状態で墓石に立てかける。
  
  
  
  

病院から戻ったブスターは、喪章を左腕にはめ、意気消沈して いつもの雑貨店に入って行く。病院に行っていた分遅くなったので、店主は、「やっと現われたか。もう来ないかと思い始めてたぞ」と文句を言うが、そこで喪章に気付く。力なくイスに座ったブスターに、奥さんが、「どうしたの?」と訊く。「ラースンさんが明け方に亡くなった」。奥さんはブスターの頭を撫で(1枚目の写真、矢印は喪章)、近くにあったキャンデーを1本渡そうとするが、ブスターは断る。そんなブスターの様子をチラチラ見ていた店主は、レジの横に置いてあった高級なお菓子を渡そうかどうか迷う。ブスターも、それを期待して、店主をチラチラ見ている。結局、店主は、最初に選んだ方でない方〔どちらが高いかは分からない〕をブスターに渡す(2枚目の写真、矢印はチョコレートで包んだお菓子)。「毎日、もらえると思うなよ」。その後で、ブスターが手品好きなので、自慢の手品をやってみせる。しかし、ブスターに、「また見られてよかったよ、オルスンさん」と言われて、がっかり。「『また』だって? どういう意味だ?」。「前に見たのは、僕が小さかった頃だよ」。「『小さい』って?」。「5歳の時、父さんから教えてもらった」。これで、さらにがっくり。その時、奥さんが、「今日の配達は1つだけよ」と言って、ヨアンナの住所を言う。ブスターは、「ヨアンナのトコだ!」と大喜び(3枚目の写真)。
  
  
  

ヨアンナの家宛の届け物は2箱。最初が、映画化にあたって消されたシーン。ブスターは、軽い方の木箱を先に持って行き〔瓶以外のいろいろな食品が入っている〕、呼び鈴の紐を引く(1枚目の写真、右手で髪を整えている)。そこに、ヨアンナの母親が出てくる。瓶がないと言われたので、すぐに取りに戻る。そして、今度は重い方の箱を運ぶ(2枚目の写真)。この時、すでに扉が開いていて、そこに母親がいるのは、1箱目があったから〔映画では、ブスターの自転車が門の前に着き、次いで、2枚目の写真のシーンがきて、その先のドアが開いて母親が待っているので、唐突な感じがする〕。ブスターが、がま口を開けて請求書を探していると、「ブスターね」という声が聞こえる。それは、ヨアンナだった。ヨアンナ:「彼がブスターよ」〔もう、母親に話してあった〕。母親:「でも、使い走りじゃないの」。「ブスター・オーレコン・モーテンスンです」。ブスターがニコニコしていると、ヨアンナが、「土曜日のパーティに呼んじゃだめ?」と母におねだり(3枚目の写真)。母親は、ブスターに、「ヨアンナは、内輪の会でピアノを演奏するのよ」と話す。「僕も、何かやれるよ」(4枚目の写真)。母親は、ピアノと勘違いして、「そうなの?」と訊く。「うん」。「来ていいでしょ。楽しそう」。「じゃあ、昼食の後に来てもらうわ」。ヨアンナ:「待ってるわ」。「じゃあ、土曜日に。さよなら」。ヨアンナは手を振ってくれる。
  
  
  
  

土曜日。ブスターは、お風呂に入り、全身をくまなく洗い(1枚目の写真)、次いで、顔以外の上半身にもれなくスプレーをかける(2枚目の写真)。次いで、妹がアイロンをかけてくれた黄色のマジシャン用のシャツを着ると、妹が髪を梳かしてくれる(3枚目の写真、矢印は櫛)。「かっこいいわね」。シャツとズボンに真っ赤な星と三日月をつけたブスターは、赤いマントをはおる。父が、それを検分する。最後の仕上げとして、4枚目の写真は、TVシリーズ(第6話)にあったが、映画化にあたり削除されたシーン。ブスターの腕にインクでブスターのトレードマークを入れる。ブスターは、配達用の自転車に乗って颯爽と出かける。
  
  
  
  

ヨアンナの家では、湖畔に向かって拡がる広い芝庭にテントが張られ、5つの家族用にテーブルが5つ置かれ、14人の客と、2人の臨時のメイドがいる〔もう、昼食は終わっている〕。ヨアンナの母親が「お座り下さい」と声をかけると、全員が席に着く(1枚目の写真)。「ヨアンナが、音楽の才能を披露できるまでになりました。素晴らしいピアニストのデビューに立ち会う機会を誰もが持てるわけではありません。そうは言いましても、私は、一人の有名な天才少年と比べるつもりなど毛頭ありません。これまで、誰一人としてモーツアルトの域に達した者などいません。小さなヴォルフガング以来、あれだけの力量をもった音楽家は一人もいませんでした。今日、私たちは、歴史的な瞬間に立ち会います。皆さん、ヨアンナです」〔母は、ヨアンナがモーツアルトの再来と言いたいのだろうが、これほどの親ばかはいない〕。ヨアンナは、いつもの『月光』を弾き始める(2枚目の写真)。それが “モールアルト級” とは、とても思えない。その頃、ブスターは家の前に着いていた(3枚目の写真)。
  
  
  

ブスターは、ピアノの音を頼りに庭の奥に入って行く。さらに、メイドの後ろを通り抜け、自分の背丈ほどある段差を登ると、ピアノのあるステージに辿り着く。そして、先端に吸盤の付いたマジック・ナイフを手に持ち、娘のそばでうっとりとピアノの音色に聴き入っている母親の背中に吸盤を付ける。母親が、譜をめくりに行くと、背中にナイフが刺さっているように見える(1枚目の写真、矢印)。そこに手品師がいるなどとは誰も思わないので、“ナイフが刺さっている” ことに気付いた1人の女性が立ち上がって卒倒する。その騒ぎでヨアンナは演奏をやめる。母親は、「どうしたの?」と訊く。その時、ブスターが壇上で両手を拡げ、「みなさん、これはただのマジックです」と言い(2枚目の写真)、母親の背中に付いていたマジック・ナイフをスポンと外す。「ご覧のように、ただのトリックです」。ヨアンナは嬉しそうに「ブスター」と言うが、母親は、折角の演奏が滅茶滅茶になり、苦(にが)い顔をしている(3枚目の写真)。「そう、僕です。ブスター・オーレコン・モーテンスンです」。ヨアンナは、「彼のお祖父さん、砲弾になったの」と母親に話す〔どこで、そんことを話す機会があったのだろう?〕。母親は、ブスターを止めようとするが、彼は、お構いなしにどんどん喋り続ける。「僕のお祖父ちゃんは、大砲人間が仕事でした。7つまで数えられたり、耳をピクピクできる犬も持ってました」と大声で言いながら、とんがり帽子から、各国旗の付いたひもを取り出していく。母親はもう一度止めようとするが、大声は止まらない。
  
  
  

そして、本格的なマジックに入って行く。「みなさん、これから、びっくりするようなマジックをお見せします」。そう言うと、テントの中の人たちを見回し、「きれいな青のネクタイをつけた方、ここに来ていただけますか?」。青のネクタイは1人しかいなかったので、彼は、自分でいいのかとネクタイを指す。ブスターが、ニコッとして、どうぞと手で合図する。紳士は嬉しそうに壇上に上がる。ブスターは、小さな袋からハサミを取り出し、「お名前は?」と訊く。「ディンスト。ヘアゴット・ディンストだ」。「OK。ヘアゴット、かがんで」。彼は、お偉い人なので、子供から呼び捨てにされて苦い顔をする。ブスターは、お構いなしに、屈んだヘアゴットのネクタイを背広から取り出すと、ハサミでちょん切る(1枚目の写真、2つの矢印はバラバラになったネクタイ)〔相手がサクラの場合は、同じネクタイをブースターが持っているから手品は可能だが、ヘアゴット氏は初対面でサクラではない〕。ヨアンナの母親は、来賓にもしものことがあったらと、ハラハラしながら見ている。「では、ネクタイを外して下さい」。ヘアゴットは、急いでネクタイを外す。それを受け取ったブスターは、大声で、「黒魔術を使う偉大なオスマン人から習いました」と言いながら、2つに切れたネクタイを小さな袋に入れる。ヘアゴットは、「このネクタイは、チロルの高級店で買ったんだぞ」と文句を言う。「これから魔法を唱えます」。ブスターは、呪文を言いながら、細かな紙切れを袋に振り掛ける。「じゃあ、ヘアゴット、手を突っ込んで」。ヘアゴットが袋に手を入れると、そこからは、切れていないネクタイが出てくる。ヘアゴットは満面の笑顔になるし(2枚目の写真)、招待者からは拍手が起きる〔このマジックは、サクラ相手でない限り不可能〕
  
  

勢いに乗ったブスターは、「みなさん、ブスター・オーレコン・モーテンスンです!」と叫びながら、テントに向かって走り下りると、客の中を見回し、腕時計をはめた紳士に目を留める。「時計を貸してもらえますか?」。男は、渋々時計を外す(1枚目の写真、矢印)。ブスターは、時計を手に持つと、次は、「ボランティアが要ります」と言いながら、女性を見て歩き、1人の優しそうな女性に目を付ける。女性は喜んで一緒に壇上に上がり、「お名前は?」と訊かれて、「ヴィオラ・エルカ・リシュンスタイン。ステラと呼んで」と言う。「OK、ステラ、ハンマーを持って」と言いながら ハンマーを取り出す。ブスターは、借りた時計〔もう、すり替えてある〕を、小さな袋に入れる(2枚目の写真、黄色の矢印は黒いベルトの別の時計、赤い矢印はハンマー)。「じゃあ、ハンマーで3回叩いて」。ステラは、3回叩くが、持ち主とヨアンナの母親は気が気でない。「これで、粉微塵になりました」。ブスターは、袋を開けて手を突っ込むと、急に困ったような顔になる。そして、袋の中身をテーブルの上に空けると、中からはバラバラになった時計が落ちてくる。それを見た所有者は動転し、ステラもヨアンナの母親も倒れそうになる。ブスターは、「これから、修復のための特別な呪文をかけます」と言い、翻訳不可能な呪文を唱える。そして、「時計は元通りにまりました」と言って、とんがり帽子の中から取り出す(3枚目の写真、矢印)〔途中で心配させる演技は巧いが、実行可能なトリック〕。これには、ヨアンナの母親を含め、お客が総立ちになって拍手を贈る(4枚目の写真)〔スタンディングオベーションだ〕
  
  
  
  

余興が一段落すると、ヨアンナは再び『月光』を弾き始める。ブスターは、ピアノに肩肘をつき、曲に(ヨハンナに)惚れている(1・2枚目の写真)。暗くなり、庭のあちこちに提灯の照明が点き、大人のパーティが始まると、ブスターとヨアンナは手に手を取って、庭の奥〔湖の近く〕にあるパヴィリオン〔庭園内にある、日本流に言えば東屋〕に行く。そして、ブスターはヨアンナの肩に腕を伸ばし、しばらくお互いに見合った後、軽くキスする。そして、もう一度(3枚目の写真)。ヨアンナの家から帰る途中、ブスターは、空に向かって、「見てた、ラースンさん? 僕、やったよ! 人生って素敵だね!」と叫ぶ。
  
  
  

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